古今東西世界に残る隕石伝承

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地球には、1年間でおよそ2万個の隕石が落ちています。

その3分の2は海中、残りの3分の1が地上に落ちていると言われますが、発見されるのは年間たったの10数個程度です。
つまり、ほとんどの隕石は地球のどこかに人知れず眠っているのです。

奇跡的に見つかった隕石には、何らかの力を感じる人が多かったのでしょう。
隕石は、古くから多くの地域の人々に「神聖なる石」として崇拝されてきました。

世界各地に伝承の残る隕石が多く存在しています。
ここではそうした隕石の伝承をご紹介していきます。

 

目次

目次

 

1. 隕石でつくられたチベットの仏像「アイアンマン」

2. ローマの安寧と繁栄を支えた「キュベレーの石」

3. 大正天皇にも献上された「流星刀」

まとめ

 

1. 隕石でつくられたチベットの仏像「アイアンマン」

 

 

隕石に神秘的な力が備わっているという考えは、洋の東西を問わずに見られます。
東洋で有名な隕石といえば、まずチベットの隕石仏像が挙げられます。

チベットの隕石伝承

占星術が盛んなチベットでは、密教にも占星術が組み込まれています。
占星術で重要な意味を持つのが隕石で、特別な吉兆とされています。

また、チベットには、天に住んでいる龍が雷とともに隕石を地上にもたらすという伝説もあります。

そうしたことから、チベットの人々は隕石を「トクチャ」という護符にして身につけていました。
修行僧が持つ金剛杵(こんごうしょ)、法具のチベッタンベル(ラマシンバル)にも隕石でつくられているものがあるそうです。

 

 隕石仏像

チベットの隕石仏像「アイアンマン」は、ナチスの親衛隊(SS)隊長ハインリヒ・ヒムラーによって1938年にドイツへ持ち帰られたことにより有名となりました。
のちの成分分析で、元となった隕石が15万5000年前に現在のモンゴルとロシアの国境のチンガー川周辺に落下した「チンガー隕石」であることがわかり、注目を集めたのです。

アイアンマンは高さ24センチ、重さ10キロ超。
11世紀ごろにつくられた毘沙門天か、チベット土着のボン教の神をイメージしたものという説が有名ですが、製作年代やモチーフには異論もあって、現在でも謎の残る隕石仏像となっています。

 

2. ローマの安寧と繁栄を支えた「キュベレーの石」

 

 

西洋にも隕石や彗星にまつわる伝承が多く残っています。
芸術作品の中にも地球に落ちて来る宇宙からの石、彗星を扱ったものがあります。

キュベレーの石

小アジアのフリュギア(現在のトルコ中西部)に祀られていた「キュベレーの石」には次のような伝承が残っています。

この石はフリュギアに落下した隕石でしたが、ローマの街路に運び入れれば、当時ローマと敵対していたカルタゴの将軍・ハンニバル(紀元前247~183年)に勝てると神託が下ったことから、紀元前205年に移送されて、パラティーノ(パラティヌス)の丘に安置されました。

キュベレーの石の加護を受けてローマはハンニバルに打ち勝ちます。
キュベレーの石はその後も人々に信仰され、ローマの安寧と繁栄を支える7つの道具のひとつとされました。

 

エメサの黒石

218年に14歳でローマ皇帝となったヘリオガバルスは、エメサ(現在のシリア領ホムス)にあった太陽神バール(バアル)のご神体として崇められていた円錐形の黒い石(エメサの黒石)をローマに運ばせ、信仰の対象としました。

当時のコインには表に皇帝ヘリオガバルスの肖像、裏には4頭立ての馬車に乗せられたエメサの黒石が描かれています。

即位4年目にヘリオガバルスが殺された後、エメサの黒石は再びエメサに戻されましたが、現存はしていません。

エンシスハイムの石

1492年11月7日、当時ドイツ領だったアルザス(現在のフランス東部)のエンシスハイムに落ちた100キログラムを超える巨大な隕石が落下しました。

住民はこの隕石を削ってお守りとして持ち帰りました。
最も大きな塊は奇跡の印として、エンシスハイムの教会に納められました。

この隕石は、神聖ローマ帝国の皇太子・オーストリア大公マクシミリアンにフランス王シャルル8世討伐を促すお告げとされています。
2カ月後の戦いでマクシミリアンがフランス軍に勝利したことで、石の評判は不動のものとなりました。

彗星を描いた芸術作品

『バイユーのタピストリー』は1070年ごろの作品で、ノルマン人のイングランド侵略成功の吉兆として凧のような形をした彗星が描かれています。

イタリア人画家のジョット・ディ・ボンドーネが1305年に描いた『東方3博士の礼拝』では、彗星が吉報と誕生の先触れとなる「ベツレヘムの星」の役割を持つものとして描かれています。
実はボンドーネは1301年にヨーロッパ上空に現れたハレー彗星を目撃しているのです。
この作品はイタリア・パドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂のフレスコ画のひとつです。

 

3. 大正天皇にも献上された「流星刀」

 

 

日本にも隕石の伝承を残す神社や、隕石からつくられた刀などが現存します。

飛び石伝説

福岡県直方市の須賀神社には、境内にとても明るい光と大きな音が発生した翌日、村人達が穴の底から重い石を見つけたという「飛び石伝説」が語り伝えられています。
この飛び石は木箱に納められて、社宝として須賀神社に保管されていました。

1979年、専門家の調査によって、飛び石が石質隕石のコンドライトであることがわかりました。
大きさは手のひらにのるぐらいですが、重さは472gもあります。

直方隕石と呼ばれるこの石は、落下が目撃されて破片が保存されている世界最古の隕石です。

気仙の「星糞(ほしくそ)」

1850年、現在の岩手県陸前高田市の気仙上空に、大きな音と明るい光を放つ巨大な火球があらわれ、長円寺の境内に落下しました。
地中1.5メートルの深さに埋まっていた隕石(気仙隕石)は、村人によって掘り出されて、「星糞」と呼ばれ、村の守り神として崇められました。

現在でも、長円寺には気仙隕石の欠片や、落下したときの資料などが保存されています。
なお、日本最大の石質隕石である気仙隕石の本体は国立科学博物館に展示されています。

流星刀

隕鉄(隕石の一種)は古くから鉄剣などの材料として使われてきました。
日本にも隕鉄でつくられた刀「流星刀」があります。

流星刀は、明治時代に政治家の榎本武揚が刀匠・岡吉国宗に依頼して完成させたものです。

榎本武揚

元となったのは「白萩隕石」で、23キロのうち4キロ分が削り取られ、長短4降りの流星刀がつくられました。

4降りの流星刀はその後、2降りが当時の皇太子、のちの大正天皇に献上され、残り2振りは東京農業大学と富山市天文台にそれぞれ寄贈されました。
また、白萩隕石は国立科学博物館に寄贈され、常設展示されています。

 

 

まとめ

 

 

地球で発見される隕石は全体のほんの一握りであり、まさに奇跡。
そのため、地域を問わず人々から「聖なる石」として崇拝されており、現在でも隕石伝承は各地に残っています。

隕石を持ったり、身に付けることで起こる、不思議なパワーについては、以下の記事にてご紹介しています。

興味を持たれた方はぜひご覧ください。

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【資料資料】
マテュー・グネル「隕石 迷信と驚嘆から宇宙化学へ」
浜本隆志「ナチスと隕石仏像」

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